もっと伸ばして 2


人の心は深遠だ
海の底の、どこから始まっていてどこまで奥があるのか
想像もつかないほど複雑に絡み合う藻場のように

コンプレックスなんて、
たいていはそんなに気にしなくても、という程度のことだとわかっている
そもそも皆自分のことで一杯で
他人事にまで執着している暇はないのだから
そこまで自意識を過剰にして人の目を気にする必要もないのである
くだらないことに囚われてバカバカしいのは百も承知
でもそうきっぱり割り切れないのもまた人の心である


私の友人でモデルのように八頭身な美人がいるが
彼女の悩みはなんと顔が人より小さいことだ

嘘でしょ、とあなたは思うかもしれない
私だって初めて聞いた時はマジ?と目を丸くした

けれどどうやら真剣に気にしているらしい
彼女は数人で写真を撮る時ちょっとでも顔が大きく写るようにと
顔だけ前に突き出したりしている

「だって小さいと貧弱に見えるでしょう?
大きくなくてもいいから普通になりたいのよ」

どうして小顔を気にするようになったか
その経緯については聞いたことはないけれど
過去に他人の口から発せられる「顔小さいね」という褒め言葉が
彼女の気持ちに歪曲して作用したのかもしれないと推測する

自分を振り返ってもそうだった
これまで何度となく繰り返しかけられた「首、長い~」という
何気ない(そうであってほしい)言葉によって
柔軟な有機体であるはずの心が
長い年月をかけて固い鎧でがんじがらめになってしまった
ほんの少しだけでも短かったらよかったのに、と

私は鏡が嫌いだ
逃げれるものなら逃げだしたい
バレエのレッスンの時は全身が映る大きな鏡の前で
毎度毎度、自分の弱さと対峙し
心の中の葛藤や卑屈さと勝負するような気持ちになる

そんなガチガチの私に
ある日突然、思いもよらぬ魔法の言葉が降ってきたのだ
まるで光を浴びた羽がふわふわと舞い落ちてくるかのように

もっと首を伸ばして

それは私を慰めようとした言葉でも
オアイソの言葉でもなかった

私の首、長くてもいいんだ。。。

本当は物理的な長さの問題ではなく
肩を落として縮こまった身体を伸ばせという意味だったと思うけれど
それでもその一言で
長年かかって形成された心の鎧には幾か所にも亀裂が入り
精神の腱や靭帯までが伸長する大きな余白を与えてくれたのだった
[PR]

by konekohaku | 2013-10-31 19:40 | 生活  

<< Orchestre de Pa... もっと伸ばして 1 >>