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Cabaret 2



<引き続きネタバレと妄想にご注意>


『キャバレー』は、
アメリカのクリストファー・イシャーウッドの短編集『ベルリン物語』を、イギリスの劇作家ジョン・ヴァン・ドゥルーテンが『私はカメラだ』という戯曲にしたものをベースにミュージカル化された。


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映画版は1966年のオリジナル舞台版をもとに、メトロ・ゴールドウィン・メイヤーが映画版を製作、1972年に公開された(舞台版とはエンディングが異なる)。


トム・フォードが監督し話題となった映画「シングルマン」の原作者として記憶されている方も多いだろう、恥ずかしながらキャバレーについては大昔から映画版に慣れ親みすぎていたからかこれまで調べようという気さえおこらなかったので、元をたどればイシャーウッドの作品に行き着くとは知らなかった。


クリストファー・イシャーウッド・・・
イングランド・チェシャーにて生まれ、イギリス陸軍の中佐であった父親の仕事の都合で様々な町にて幼少期を過ごした。
第一次世界大戦で父が戦死し、その後は母とロンドンで暮らすようになる。
サリー州のプレパラトリー・スクールでW・H・オーデンと出会う。
その後、医学を学ぶためにキングス・カレッジ・ロンドンに入学したが、1年で退校した。
イギリスのアッパー・ミドル階級の暮らしを嫌悪し、ベルリンやコペンハーゲン、シントラなどヨーロッパ各地で生活したのち、アメリカ合衆国へ渡る。
ゲイ男性の文筆家として著名。
48歳のとき、当時18歳だった画家ドン・バチャーディに出会い、亡くなるまで生涯のパートナーだった。
2007年には二人の生涯を追ったドキュメンタリー映画『Chris & Don. A Love Story』がリリースされている。

  (以上、太字部分はウィキペディアより)


「goodbye to berlin」は(邦題は「ベルリン物語」または「さらばベルリン」)イシャーウッドがベルリンに滞在した時(1931~1933)の見聞に基づいて書かれた作品。
まだ翻訳されていないようだが、その中の一篇「Sally Bowles」が世界短編文学全集の中にあったので近くの図書館で借り読んでみた。

主人公の男性の名はクリストファー・イシャーウッド、なんと作家本人だ。
クリストファーは知人の紹介で奔放に生きる歌手サリー(架空の人物)に出会い、意気投合した二人は同じ下宿に住みはじめる。

映画と同じく原作でもサリーはエメラルドグリーンのマニキュアをし、生卵とウスターソースをかき回して作った"プレーリ・オイスター"なるものを常食としている。
サリーは秘かにクリストファーに思いを寄せるが二人が男女の仲になることはない。
作中には映画のマクシミリアンと思しきお金持ちの男性も登場する。

映画版は舞台版を元にした、というよりこの「Sally Bowls」を膨らませたものと考えてよさそうだ。


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サリー・ボウルズはイシャーウッドがベルリン滞在中にアパートメントをシェアした、Jean Rossというイギリスアッパーミドルクラス出身の実在の女性をモデルに書き上げたキャラクター。
ジャーナリストで、サリーのイメージと違ってインテリだったようだ。
(下記動画参照)
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当時のベルリンはワイマール共和国の首都として急速に国際都市へと発展、人々は享楽的退廃的風刺的な大衆文化を生み出し、この町に多くのゲイアーチストが流れ込んだ。
性的にも非常に開放的な町だったようで、ゲイであったイシャーウッドも堅苦しいイギリスから自由な男性と関係を求めベルリンへやってきたとされている。
(http://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_Isherwood より)

ところが一方でナチスが台頭、1993年政権を掌握するとレビューやキャバレーを代表とするアンダーグランド文化の弾圧が始まり、ベルリンの町はその様相を変えていく。
イシャーウッドはわずか2年でベルリンを去るが同性愛者が迫害の対象であったこともこの町を後にした大きな要因だっただろう。



こんな動画を見つけた。
タイトルは「The Real Cabaret」、案内役は舞台Emcee役で有名なアラン・カミング。
イシャーウッドが実際に住み、撮影にも使われたアパートや1930年頃のベルリンの様子、イシャーウッド、ライザミネリ、作品にゆかりのある人々のインタビューなど、お宝映像満載のビデオ。



この番組の中で脚本家のMasteroffhは舞台版キャバレーができたのは1966年、当時はナチスや中絶の描写だけでいっぱいでイシャーウッドのホモセクシュアリティのことまで描けなかったと語っている。
1972年の映画版でようやく彼の性的傾向に踏み込めたとのこと(ゲイではなくバイとしてだったが)。

フォッシーはイシャーウッドの性指向の描写抜きにしてキャバレーという作品は語れないと考えていたのでは?
どうして老カップルではなく若いカップルを取り上げたのか本当のところはもちろん制作陣に聞いてみないとわからないけれどいずれにしてもイシャーウッドの視線の先にあるサリーボウルズという陽気で嘘つきで孤独なキャラクターが、ミュージカル映画の素材として格別の光を放つ存在であったことは間違いない。
映画はアカデミー賞で監督賞、主演女優賞、助演助演賞など、8部門を制覇した。
(作品賞は受賞ならず、ゴッドファーザーが取った)


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    若い頃のイシャーウッド。ブライアンは彼にそっくり。


映画のサリーはやはり夢を叶えるためだけに恋を捨てたのではなく自分の自堕落な性格に加え、相手が芯の部分では男性しか愛せない人だったが故に将来的に二人の関係が破綻することを見越して別れを選択をしたのだろう。大人になって(てか、おばさんになって、だな)改めて映画版を観ると至る所でブライアンは女性より男性が好きなのだと暗示している。
いや暗示ではなく、明示、だ。
子どもの頃の私はそれを理解できなかった。(幼かったんだねぇ)

ちなみに映画版キャバレーのサリーを演じたライザミネリは1974年に最初の夫ピーター・アレンと離婚している。

”I married Peter and he didn't tell me he was gay.
Everybody knew but me.”

これはライザの語った言葉。ライザ・ミネリもサリー・ボウルズも叶わぬ恋に涙していた。
どおりで名演だった訳だ。
(おしまい)

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by konekohaku | 2014-05-27 19:35 | movie・theater  

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