シルヴィ・ギエム ファイナル


バレエダンサーを見ていると頭身バランスはもちろん、股関節の開きや柔軟性など努力だけでは超えることのできない、持って生まれた身体の資質みたいなもの感じることがある。踊りに対する感性や能力、精神力、恵まれた身体、それらを兼ね備えている人が一流のプロになれるんだろうけど、ギエムさんはその全てを最高レベルで保持しているように思う。兵庫公演で踊ったのはコンテンポラリーの「TWO」と「ボレロ」。幸運にも超良席のチケットが手に入り、肉眼で細部まで食い入るように観ることができた。

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「TWO」
透けて見えるかのような関節や腱が生み出す流麗な動作に光がぴたりと纏わりつく。この世で唯一無二の存在がたった一人で極限の表現に挑んでいるかのような超越した時間と空間。何か途轍もないものを目撃したような気持ちに。

「ボレロ」
終演後、「今日はファイナルだからかボレロも特によかったですね」という興奮気味の観客の会話が聞こえてきた。しかし同行の友人はむしろ10年ほど前に観た時と全く変わってなかったことに驚いたという。同年代だからわかるが、この年齢で維持できているというのは本当にすごいこと。手や足、もちろん身体全体もバレエど素人の私は大変重いものと捉えているけれど、ギエムさんは全く重力を感じていないかのような弾力とキレ。そしてこの踊りでもそれぞれの関節の、並外れた滑らかさを目の当たりにすることに。

カーテンコールで何度も姿を見せてくれたギエムさん。ファンから渡されたサンタの絵がかかれた紙袋を持つ姿が本当に愛らしくて。50を境に女性の身体の変化は凄まじく、彼女が今引退という道を選んだのはよくわかる。最後まで完璧な踊りを見せてくれたことに心からの拍手!
@兵庫芸術文化センター


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というわけで今年はバレエの真似事をしているものからすると神さまのような存在であるギエムさんの、ファイナルという特別な公演で締めくくることができました。家庭内では色んな案件がでてきて落ち着かない日々を送っていましたが、お遊び部門ではそんな心のざわめきを忘れさせてくれるかのように素晴らしいステージに出会いました。中でも、背景や抱えている問題は違えどその親子関係に深く深く共感するところのあったミュージカル「Gypsy」と「Fun Home」、クラシックコンサートではああやっぱりこの人の音楽性が好きだ~と再確認したピリス&メネセスさんの演奏会が格別でした。来年も心躍る瞬間にたくさん出会えるといいな。

皆さまもよいお年をお迎えになりますよう。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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# by konekohaku | 2015-12-30 20:56 | movie・theater  

ワールドプレミアミュージカル 『プリンスオブブロードウェイ』


天才プロデューサー&演出家として名作ミュージカルを世に送り続けてきたハロルド・プリンス氏の最新作『プリンス・オブ・ブロードウェイ』、ブロードウェイ入りを目指す作品が日本でプレビュー公演を行うこと自体極めて稀なうえに、宝塚歌劇団のレジェンド柚希礼音さんの退団後初公演ということで大変な話題になっていました。チケ難かと思いきや蓋を開けてみれば評判はあまり芳しくなく、戻りもたくさん出て、座席を選べない先行販売でいち早く当選してしまった私はちょっと損した感じ。しかしBWミュージカルが大好きなのでなんやかんや言いつつも大変楽しい時間を過ごしたのでした。いよいよ幕が上がり氏が携わった作品のタイトルが次々にシルクスクリーンに映し出された時点で血が騒ぎ、心は祭り状態に!(ハロルド・プリンスの略歴についてはこちらで。)


アルバムのページをめくるがごとくミュージカルにおけるプリンスさんの歴史を丁寧になぞっていく本作品(舞台は写真の額縁のようなデザインだった)、思い出したのはあの傑作ミュージカル『プロデューサーズ』を作ったメル・ブリックス氏の言葉。

他民族と違って、(ユダヤ人が)疎外や差別されている気持ちを和らげるには笑いしかなく、笑わなければいつまでも泣くしかありません。

『Hamilton』でもチラっと書きましたが、BWミュージカルは激しい迫害から逃れるためヨーロッパやロシアから(ポグロム参照 )アメリカへ移住してきた人たち、つまりユダヤの人々が生み出し、NY特有の人種的多様性や他のマイノリティを取り込みつつ発展させてきた文化です。彼らの祖先の物語でもある「屋根の上のヴァイオリン弾き」、ナチスの台頭を背景に描いた「キャバレー」、レオ・フランク事件を題材にした「パレード」など、ドイツ系ユダヤ人であるプリンス氏が関わった作品にも不条理に対する心の傷や怒りや哀しみが色濃く反映されてることを今回改めて感じました。私はお涙頂戴物がとても苦手なのだけれど、BWミューはその対極。今もNYの小さな劇場のドアを開けると軽快な踊りや歌の中に主流から弾かれ続けている人たちのユーモアに隠された涙、そして彼らの矜持や気概を感じます。深い思いをのせ60年間、第一線で名作を世に送り出し続けたハロルド・プリンス。彼の歴史はBWミュージカルの歴史でもあるので、なんとかこの作品もオンにあがってほしいものです。



以下ちょっと気になった点を羅列しときます。

・パフォーマーの第一声から、脳が期待するBWで聞く音質との違いに最後まで悩まされた。オケも最初録音だと思っていた程。本来彼らの声は強固な芯と弾力性を併せ持っていてどんどんと先へ伸びていくはずなのに、耳に到達したのはマイクが作った平べったくてぼわんとした人工的な音。これじゃあ彼らの実力が伝わりきらないよーと残念な気分に。や、十分に素晴らしかったけどね。クラシック専用ホールと違って反響を考慮して設計されていないだろうから、あの大きさではマイクで音量を上げるのは仕方ないにしても、エコーを控えるとかもうちょっと工夫してほしかった~。

・こういった集大成的な作品は過去にもあって、よほど目新しい切り口でアプローチしない限り二番煎じ感が拭えない。各々の場面はオリジナルを再現しているものもありいいところもあったけれど(しかし「send in the clowns」などはフレデリックを登場させ台詞を入れてもよかったんじゃないかなあ。あれだけの名曲なのに勿体ない。)全体的な構成にはもっと斬新さが必要だったのでは?しかもハロルドさんはソンドハイムとよく組んでいるので2010年オンで上演された、ソンドハイム作品を集めた「sondheim on sondheim」とコンセプトのみならず曲目までたくさん被っちゃった。これは痛い。

・柚希さんの使い方に疑問が。取ってつけたみたいだった。どんな裏事情があったにせよ、キャスティングしたからには上手く組み込むのが腕の見せ所、観客に違和感を与えたのは演出上の失敗だと思った。それともオンにあがった暁には柚希さんを切ることになっているのかしらん?なんだかな~。歌が云々と批判的な(というかボロクソな)意見もちらほら目にしたけれど想像以上によかった。あれだけやれれば立派だと私は思う。誰よりもキラキラと輝いていたし、個性重視のBWなんだからもっと性別不明なあの存在感を利用すればいいのに。と、言うは易いが難しいのかな~。

・やはり字幕があるのは有難い!


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@梅田芸術劇場
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# by konekohaku | 2015-12-17 20:27 | movie・theater