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The Audience



TOHO系の映画館で上映されている、英国ナショナル・シアター・ライヴ「ザ・オーディエンス」を観に行った。 

おなじみの英国首相やエリザベス女王の佇まいが再現されるだけでも楽しい上に、セリフの応酬を通して彼らの人となりが次々に顕在化し、非常に面白いお芝居だと思った。
どこまでも品格よく、どこまでもシリアスな内容でありながら、一級の俳優たちによるウィットに富んだ台詞とシンプルに練られた演出に会場からは何度も笑いが起こる。
大人の上質な芝居とはこういうものを言うのだろうと、まるでロンドンのギールグッド劇場の末席に座っているような(映画館で一番後ろの列を選んだから)感覚で、生の舞台を観ているが如く職人芸に陶酔してしまった。「対話」が主役な作品であるから、臨場感をもって字幕付きで鑑賞できるのは尚更に有難い。

オーディエンスとは「謁見」のこと。
首相たちは様々な報告や今後の予定などを、時に私事を交えながら女王に伝える。
歴代首相とエリザベス女王の間で、途切れることなく行なわれてきたこの「オーディエンス」、首相の一任期中に70回ほど行われるそうだ。



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入れかわり立ちかわり登場する首相たちに対し、女王は「いつもそこにいる」(劇中のセリフから)。
髪型や服装、その姿は年齢に応じてランダムに変化していくが(舞台上での早変わりもあり、これがお見事)その「存在」と「耳を傾ける行為」は、舞台の背景となっている宮殿の謁見室の内装ともに変わることがない。
即位から現在に至るまでの長きに渡ってイギリスを治め続けてきたという時間の重みを視覚的に実感できるというわけだ。
チャーチルからキャメロンまで首相の数は12人(登場するのは半分くらい)。
相手が変わらないが故に、各人の個性や女王陛下との相性の違いが役者の力量もあって明確に浮かび上がる。


幕間にこの作品の脚本家ピーター・モーガン(映画「クィーン」、「フロスト/ニクソン」もこの人)のインタビューシーンがあったのだが、その中で彼は女王と首相との関係はセラピストと患者のようなものだと語っている。(女王の方が患者側になることもあり。)
椅子に座って変わらず「対話」をし続けること。そこから生み出される対立や役目を越えた心の絆。多少峻嶮に捉えていた女王の印象がこの作品で変わってしまった。

演出は「リトルダンサー」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」などで有名な名匠スティーブン・ダルドリー。主演はヘレン・ミレン。彼女は映画「The Queen」でオスカー、この「The Audience」でローレンスオリビエ賞と、どちらもエリザベス女王を演じることで主演女優賞を獲得した。

少女エリザベスによって語られた女王の本音の部分、時折見せる沈吟の様、終盤のウィルソン首相とのエピソードにはほろりと。

映像化によりこういう海外の名舞台に触れる機会が今後増えることを切に願う。

wiki:
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Audience_(2013_play)

by konekohaku | 2014-07-02 19:57 | movie・theater  

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